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ブルカージャパン(株)ナノ表面計測事業部摩擦摩耗試験機によるアプリケーションノート(※掲載元:メカニカルサーフェス・テック 2018年4月号 注目技術特集)
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ポリマー基材(フィルム)上の金属系ナノ薄膜は、アンテナ構造や識別タグ、太陽電池、人工皮膚、ウェアラブル機器、電子ペーパーといった様々なフレキシブル電子デバイスにおける、相互接続素子として利用されている。多用されている理由としては、シリコンベースのナノ薄膜に比べて、金属系ナノ薄膜は、比重が小さい、機械的な柔軟性に優れる、組み込みやすい、低コストといった材料固有のメリットを備えているためである。
金属系ナノ薄膜の性能を発揮し続けるためには、基材へのナノ薄膜の密着性が重要になるが、ここでは、ブルカー社の多機能トライボロジー試験システム「UMT TriboLab」を用いてスクラッチ試験を行った例を紹介する。
ポリマー基材とその上に被覆した金属系ナノ薄膜という組み合わせでは、ポリマー基材が実働荷重に耐える一方で、金属系ナノ薄膜は比較的大きなひずみ量が付与されるまでは破断することなくその機能を保持する。金属系ナノ薄膜はまた、優れた電気的、機械的特性を持つ。特に導電性や、繰り返し歪みのかかる状態での降伏強さ、破壊靭性などである。
金属系ナノ薄膜のそうした性能項目はしばしば、フレキシブルデバイスの信頼性や耐久性に直結するため、金属系ナノ薄膜の性能を発揮し続けるためには、基材へのナノ薄膜の密着性が重要になる。密着性が不足している場合は、膜が早期に損傷することとなり、フレキシブル電子デバイスの効率低下につながる。膜の破断と層間はく離は、こうしたナノ薄膜の二大損傷モードである。
さて、製造時にインラインでフィルムの品質管理を容易に実施できる安定的で迅速な手法としては、スクラッチ試験がある。しかしながら、スクラッチ試験をフレキシブルで薄い膜に適用することは容易ではない。
こうした評価のためのナノ機械特性試験機の使用は、スクラッチ時のフィルムの損傷を引き起こすための力の領域によって制約を受ける。一般的に使われる鋭角な圧子で荷重をかけてスクラッチすれば、亀裂や層間剝離といった過程を経ずに、フィルムが切り裂かれてしまうからである。
こうした用途に適したシステムとしては、ブルカー社の多機能トライボロジー試験システム「UMT TriboLab」の機能の一つである、スクラッチ試験システムがある。このシステムでは、迅速に、容易に、より安定的にナノ薄膜の臨界荷重を求めることができる。
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検知範囲0.5~200NのDFHフォースセンサ―と、スクラッチスタイラスの代わりとなるタングステンカーバイドのボール(直径1.6mm)が、ポリマー基材上の金属系ナノ薄膜のスクラッチ試験を実施するのに用いられる。金属系ナノ薄膜を被覆したポリマーフィルム試料がY軸ステージに搭載され、続いてタングステンカーバイドのボールがセンサーの下にセットされる。スクラッチ試験はボールを用いてフィルム試料の上に0.2Nの負荷荷重を加えるところからスタート、それからボールを押し込まれたフィルム試料が0.02mm/sの速度で2mmの距離を移動する。
垂直荷重(Fz)はフィルム試料が動いている間に0.2Nから8Nまでリニアに増やしていき、スクラッチ試験中にFx値とFz値のデータが記録されていく。試験後はスクラッチ試験全行程の画像(パノラマスクラッチ画像)が自動的に表示される。スクラッチ痕は、いくつかの位置におけるスクラッチの形状やサイズとして、ブルカー社の三次元光学顕微鏡を用いて評価された。
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図1は、ポリマー基材(試料)に被覆した金属系ナノ薄膜に対して荷重増分法によるスクラッチ試験を実施した際の垂直荷重(Fz)と水平荷重(Fx)をプロットしたものである。水平荷重は緩やかに増加している。図1上にパノラマスクラッチ画像も添えているが、最終的なスクラッチ痕の幅が約238μmであったことが、図1右上の⊿Xの数値から見て取れる。パノラマスクラッチ画像において半円形のき裂が発生し始めている箇所と垂直荷重(Fz)のプロットを照合することで、垂直荷重3.42Nの時点でフィルム試料の損傷が始まっていることが分かる。フィルムの損傷に対応するFx値は0.66Nで、厚膜のスクラッチ試験とは異なり、ナノ薄膜の損傷開始時には、Fxプロットにおける明確な不連続性は見られなかった。水平荷重にはこうした高い垂直荷重を負荷した際の試料の塑性変形の影響が支配的で、本質的にはナノ薄膜が破壊に抵抗する力の影響は少ない可能性がある。ナノ薄膜の損傷の開始に観察される半円形のき裂は、タングステンカーバイドのボール表面が引きずられた際に形成されたもので、このときにフィルムには引張荷重がかかったものと推測される。
垂直荷重の負荷を増やしていくにつれて、半円形のき裂のサイズも大きくなっていった。Fz値が約6.7の時に、薄膜は大きなき裂を示した。この大きなき裂は、隣接する二つの半円形のき裂がつながった第二のき裂によって形成されたものと思われる。こうした高い引張圧力のもとでは基材もまた、損傷(破壊)し始める。
図1 ナノ薄膜のスクラッチ試験におけるスクラッチ距離とFx値およびFz値のプロット
スクラッチ痕の表面は、ブルカー社の三次元光学顕微鏡(光干渉法)を用いてより詳細に分析され、形成された半円形き裂の形状に関するさらなる情報が得られた。Fzの臨界荷重値で形成された半円形のき裂の表面形状を図2に示す。三つの同形状のき裂が認められる。スクラッチ方向は図2下から上で、最初のき裂(図2の一番下)は約80μmの長さになる。図2中の上下Y-Yのラインに沿った深さプロファイルを図3に示す。
図3は、スクラッチ痕の箇所で約300nmの高さ変化があったことを示している。図3からは、最初のき裂の前縁部は表面から約100nmの深さを持ち、また同き裂の後縁部は表面から約200nm隆起していたことが分かる。これは引張の力によって完全にフィルムそのものが損傷する前に、後縁部のナノ薄膜の破砕によってもたらされ、このようにしてナノ薄膜の後縁部が隆起したものと考えられる。
一方、前縁部はボールが接触し続けて押し込まれ、沈み込んでいた。このようにしてスクラッチプロファイルにおける不連続性が現れた可能性がある。スクラッチ痕の表面からの深さは、ナノ薄膜の厚さの範囲と同等となる。光干渉計を使うことで、大きい損傷範囲の特定個所を観察できる。
図2 ナノ薄膜の損傷が始まった近辺の表面形状:三つの半円形のき裂が確認できる
図3 図2のY-Yラインに沿った深さプロファイル
スクラッチ試験は、損傷が始まるFz臨界値に関する統計データの信頼性を保証するため、10回実施した。表1は、全試験の、損傷に至った臨界垂直荷重値を示す。さらに、臨界荷重値の平均値3.39と、標準偏差(SD)0.26も記載した。ここで得られたスクラッチデータは、ブルカーのスクラッチ試験システムがフレキシブル電子デバイス用途向けのポリマー基材上の金属系ナノ薄膜のスクラッチ試験を有効に実施できることを証明している。
表1 スクラッチ試験における金属系ナノ薄膜が損傷した臨界値
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●多機能摩擦摩試験機 UMT TriboLab
摩擦摩耗試験機カタログ |
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ブルカージャパン株式会社 ナノ表面計測事業部
Tel.03-3523-6361 / Fax.03-3523-6364 E-mail : Info-nano.BNS.JP@bruker.com
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